社会って面白い!!~マンガでわかる地理・歴史・政治・経済~: 「律令」(養老律令)②八虐

2024年2月2日金曜日

「律令」(養老律令)②八虐

 現在では、犯罪に対する罰の重さは、悪質性・重大性・動機によって決められているそうですが、

古代においては、特に「秩序を乱すものかどうか」が罪の重さを決める大きな基準となっていました。

主君や、主人、親、夫には逆らうことなく尽くすべきである、それが秩序ある世の中を作るのである、というものですね💦

現代の刑法においても、尊属殺重罰規定(父母・祖父母を殺害した場合は死刑か無期懲役とする)というのがありましたが、これは1995年に削除されています。

さて、古代では、具体的に誰に対する、どのような罪が重い罰を受けることになっていたのか、見てみましょう。

※マンガの後に補足・解説を載せています♪


〇八虐

律には「八虐」という、特に重く罰せられることになる、秩序を破壊するような8つの罪について述べている部分があります。

①謀反([ムヘン]。『日本書紀』の古訓には「ミカドヲカタムケントハカル」とある)→天皇に危害を加えようとすること。

②大逆→天皇の墓や内裏に損害を与えようとすること。

③謀叛(ムホン)→国を裏切って、反乱を企てたり、反乱者や敵国に味方しようとすること。

④悪逆→祖父母・父母を殴ったり蹴ったり、また、殺そうとすること。また、おじ(叔父・伯父)・姑・兄姉・外祖父母(母方の祖父母)・夫・夫の父母を殺すこと。

⑤不道→ある一家を三人以上殺したり、人を切断したり、呪術に使う物を製造したり、人を呪ったりすること。または、おじ(叔父・伯父)・姑・兄姉・外祖父母・夫・夫の父母を殴ったり蹴ったり、訴えたり告発したり、殺そうとしたり、目上の親族や妻を殺そうとしたりすること。

⑥大不敬→伊勢神社を損壊し、大幣(神官が儀式のときに持っているアレ)や神物、天皇家の衣服、神器、御璽を盗んだり、偽造したり、天皇家の薬を正しく作らなかったり、薬の説明書きを間違えたり、食い合わせの物を料理に出したり、天皇の乗る船を堅固に作らなかったり、天皇の悪口を言ったり、天皇の使者に対して礼を欠いたりすること。

⑦不孝→祖父母・父母を訴えたり告発したり、呪ったりののしったり、祖父母・父母が生きている間に財産を分け合ったり、父母の喪中に結婚したり、音楽を鳴らしたり、喪服を脱いだり、祖父母・父母の死を聞いても哭泣の礼(死を告げに来た使者に泣き叫ぶ動作を行い、理由を問われればただ「哀しいため」と答える)をとらなかったり、祖父母・父母が死んだと嘘をついたり、父・祖父の妾を自分の物にしたりすること。

⑧不義→主人・国司・先生を殺したり、下級役人が所属している役所の上司の五位以上の者(つまり貴族[公卿])を殺したり、夫の死を聞いても、哭泣の礼をとらなかったり、その喪中に音楽を鳴らしたり、喪服を脱いだり、別の家に嫁いだりすること。

では、この八虐にあたる罪を犯した場合、どのような罰を受けることになるのか、見てみましょう。

[謀反・大逆・謀叛の罪に対する罰]

賊盗律1条 天皇に危害を加えたり、天皇の墓を暴いたり、内裏に損害を与えたりした者は、首謀者であるにかかわらず斬刑とする。また、その父子・家人・財産・田畑や邸は、官戸とされる。80歳以上と篤疾の者は連座の罪に問わない。祖父母や孫は遠流とする。天皇に危害を加えるために立ち上がったものの、人がついてこなかった場合でも斬刑とする。この場合は父子を遠流とし、財産は没収しない。大逆をはかったが未遂に終わった者は絞刑とする。

2条 謀反・大逆をした者の親族であっても、同居でなければ、財産・田畑・邸宅は没収しない。同居していても、親族でない者、兄弟の子などは罪に問わない。他家の養子になっている者、出家している者も罪に問わない。

3条 実行する気がないのに、謀反の事について述べた者は、徒刑3年とする。

賊盗律4条 反乱を企てたり、反乱者や敵国に味方しようとした者は、絞刑とする。実際に実行した者は、斬刑とする。子は中流とする。10人以上を率いていた場合は、父子は遠流とする。10人以上でなくても、害があった場合は10人以上の時と同様とする。逃亡して、国の呼び出しに応じない者は、謀叛扱いとし、追討を受けて抵抗した場合は、反乱を実行したものとして扱う。

闘訟律逸文 謀反・大逆を知りながら、報告しなかった場合は、絞刑。謀大逆・謀叛の場合は、流刑2千里。天皇の悪口や、妖言(人々を惑わせる予言)の場合は、五等軽く扱う。役人が報告を聞いて、逮捕を半日放置した場合、報告しなかった者と同じ罰を与える。

[悪逆・不道の罪に対する罰]

賊盗律6条 祖父母・父母・外祖父母・夫・夫の祖父母や父母を殺そうとした者は、斬刑とする。正妻・継母・おじ(叔父・伯父)・姑・兄姉を殺そうとした者は遠流。傷つけた場合は、絞刑。目上の親族を殺そうとした場合は、徒刑3年。傷つけた場合は、中流。殺した場合はどちらも斬刑。目上の親族が目下の親族を殺そうとした場合は、罪を四等軽く扱う(つまり徒刑1年)。傷つけた場合は、罪を二等軽く扱う(つまり徒刑3年)。

12条 ある一家の者を3人殺したり、人を切断した者は、斬刑とし、その子を徒刑3年とする。

15条 蟲毒(蛇・ムカデ・カエルなどを同じ容器に入れて共食いをさせて、生き残ったものを呪いの道具に使ったり、その毒を使用する)を製造したり、作ることを勧めたりした者は、絞刑。同居の者は知らなかったと言っても、遠流とする。里長(郷長。50の家をまとめる、村長のような者)は知っていて止めようとしなければ、徒刑3年。同居の者に蟲毒を使用した場合、蟲毒を作っていたことを知らなかった場合、同居の者は無罪とする。

17条 人を憎み、人形や呪文を書いた符書を用いて人を呪い、殺そうとした場合、人を殺そうとしたときの罪より二等軽く扱う(つまり徒刑1年)。目上の親族・外祖父母・夫・夫の祖父母に対してこれを行った場合は、減刑しない。呪うことで死に至らしめた時は、殺人の罪と同じ扱いとする(つまり斬刑)。呪うことで人を病気にし、苦しめた時は、殺人の罪より四等軽く扱う(つまり徒刑2年)。子孫が父母・祖父母に対して行ったっ場合、家人・奴婢が主人に対して行った場合は、減刑しない。祖父母・父母・主人に愛して(かまって)ほしいために行った場合は、徒刑2年。天皇を呪った場合は、首謀者に関わらず、全員絞刑とする。

闘訟律逸文 夫が妻を殴り傷つけた場合は、通常より二等減ずる(つまり杖罪40)。死なせた場合は通常と同じく扱う。妾に対しては妻の時より二等減ずる。妻が妾を殴り、傷つけ、殺した時は、夫の妻に対する場合と同じく扱う。誤って殺した時は無罪。

逸文 妻が夫を殴った時は、杖罪100。重傷を負わせた場合は、これに三等を加える(つまり徒刑2年)。死なせたときは斬刑。妾が行った場合はそれぞれに一等を加える。不注意で殺傷した場合は、二等を減ずる。夫をののしった者は、杖罪80。妾が妻を罵った場合も同様とする。

逸文 兄・姉を殴った者は、徒刑1年半。傷つけた者は徒刑2年。骨折させた者は近流。刃物で手足を切断したり、1つの目を失明させた場合は絞刑。死なせたらば斬刑。ののしった者は杖罪80。叔父・伯父・姑・外祖父母にした場合は、罪を一等重く扱う。不注意で殺傷した者は、罪を二等軽く扱う。弟・妹・兄弟の子孫・外孫(娘や分家の息子にできた子ども)を殴り殺した場合は、徒刑3年。刃物を持って故意に殺した場合は、流刑2千里。

逸文 祖父母・父母を罵った者は徒刑3年。祖父母・父母を殴った者は斬刑。不注意で殺してしまった場合は流刑3千里。祖父母・父母が命令に違反した子孫を殴って殺した時は、徒刑1年半。刃物を持って殺した時は、徒刑2年。故意に殺した時は、罪に一等を加える。養父母の場合は、それぞれに罪一等を加える。

逸文 妻・妾が夫の祖父母・父母をののしった場合、徒刑3年。殴った場合は絞刑。傷つけた場合は斬刑。誤って殺してしまった場合は徒刑3年。誤って傷つけた場合は徒刑2年半。子孫の妻を殴って廃疾にした場合は杖罪100。篤疾にした場合はこれに一等を加える(つまり徒刑1年)。死なせたときは徒刑3年。故意に殺した時は流刑2千里。子孫の妾にした場合はそれぞれ二等を減ずる。誤って殺した時は無罪。

逸文 伯父・叔父・兄・姉・外祖父母・夫・夫の祖父母を訴えた者は、徒刑1年。訴えた内容が重罪にあたる場合は、罪を一等減ずる(つまり杖罪100)。重罪であると虚偽の内容を訴えた場合は、誣罪に三等を加える。年上の三等の親族(従兄・従姉など)の場合は、一等減ずる。年上の四等以上の親族(兄の妻・従兄弟の子・母の兄弟姉妹など)の場合は、二等減ずる。重罪であると虚偽の内容を訴えた場合は、誣罪に一等を加える。謀反・大逆・謀叛を訴えた場合は、罪に問わない。

[大不敬の罪に対する罰]

賊盗律 1条 …伊勢神宮に損害を与えようとはかったが、未遂に終わった者は徒刑1年、実際に損害を与えたものは遠流とする。

23条 大嘗祭などで使用する大幣を盗んだものは中流。伊勢神宮の宝物を盗んだものも同様とする。供え終わった飲食・幣物を盗めば徒刑2年。まだ供え終わっていない物を盗めば徒刑1年半。釜・甑・刀・匕などを盗んだものは、通常の窃盗罪で扱う。

24条 神器を盗んだ者は絞刑。関所の割符(関所の通行証)、御璽、駅鈴(駅馬使用許可証)を盗んだ者は、遠流。天皇の衣服・食事・調度品を盗んだ者は、中流。天皇に渡される前の衣服・調度品、もしくは使用済みとなった衣服・調度品、または、天皇に差し出される前の食事の場合は、徒刑2年。食事を担当する係の喪に渡される前の食物や、帷帳・几杖などを盗んだ者は、徒刑1年半。

詐偽律 逸文 神器を偽造した者は斬刑、御璽を偽造した者は絞刑。

職制律 12条 天皇家の薬を調合するときに、分量や方法を間違えるなどして正しく作らなかったり、薬の説明書きを間違えたりした場合、薬を調合した者は徒刑3年。薬の原料を煎ったり削ったり洗ったり潰したり、悪い部分を取り除いたりするのを、雑に行った場合は、杖罪60。天皇に渡していない薬の場合は、罪を一等軽く扱う。薬を担当した役人(中務少輔・内薬正など)は、薬を調合した者から一等減じた罰を与える。

13条 天皇の料理を作る者が、食い合わせのものを用意した場合、徒刑3年。穢悪のもの(動物の肉か?)が含まれていた場合、杖罪100。材料を雑に選んだ場合は、杖罪80。味見をしないのは、杖罪60。

14条 天皇の乗る船を堅固に作らなかった場合、その原因を作った者を徒刑3年とする。船を飾らなかったり、船に備わっていなければならないもの(棹など)が用意されていなかった場合、徒刑1年。

15条 天皇の衣服をきれいに保っていない場合、笞罪50。天皇の乗る馬を調教していなかったり、車や馬の備品が頑丈でなかったりした場合、徒刑1年。まだ天皇が使用していなかった場合は、三等軽く扱う。天皇が移動する際、必要なものが足りない場合、杖罪60。

17条 天皇の料理を用意する御膳所に薬物を持ち込んだ者は、徒刑3年。

32条 天皇を激しく批判した者は、斬刑とする。激しくない場合は、徒刑2年。天皇の使者に対し礼を欠いた行動をとった場合は、絞刑。

[大不孝の罪に対する罰]

闘訟律 逸文 連座の対象となる謀叛以上の罪でないのに、祖父母・父母を訴えた者は絞刑。

逸文 祖父母・父母を罵った者は徒刑3年。祖父母・父母を殴った者は斬刑。不注意で殺してしまった場合は流刑3千里。祖父母・父母が命令に違反した子孫を殴って殺した時は、徒刑1年半。刃物を持って殺した時は、徒刑2年。故意に殺した時は、罪に一等を加える。養父母の場合は、それぞれに罪一等を加える。

逸文 妻・妾が夫の祖父母・父母をののしった場合、徒刑3年。殴った場合は絞刑。傷つけた場合は斬刑。誤って殺してしまった場合は徒刑3年。誤って傷つけた場合は徒刑2年半。子孫の妻を殴って廃疾にした場合は杖罪100。篤疾にした場合はこれに一等を加える(つまり徒刑1年)。死なせたときは徒刑3年。故意に殺した時は流刑2千里。子孫の妾にした場合はそれぞれ二等を減ずる。誤って殺した時は無罪。

戸婚律 逸文 祖父母・父母がまだ生きているのに、財産を分割しようとした者は、徒刑2年。祖父母・父母が子孫に勝手に財産を移そうとした場合は、徒刑1年(子孫は罪には問わない)。

逸文 父母・夫の喪中であるのに、結婚した者は徒刑2年。妾を持った場合は罪を二等軽く扱う。喪中と知っていながら結婚した相手の父は五等罪を軽く扱う。知らなかった者は罪に問わない。父母・夫以外の喪中に結婚した者は、杖罪100。年下の親族の喪中の場合は、罪を二等軽く扱う。妾は罪に問わない。

職制律 30条 父母や夫の死を聞いても哭泣の礼を取らなかった場合、徒刑2年。喪中に喪服を脱いだり、音楽を鳴らしたりした場合は、徒刑1年半。双六・囲碁などの遊びをした場合は、杖罪80。音楽の演奏しているのにたまたま遭遇してこれに聴き入ったり、宴会をしているのに遭遇してこれに参加したりした場合は、杖罪60。祖父母・外祖父母の死を聞いても哭泣の礼を取らなかった場合、徒刑1年。喪中に喪服を脱いだ場合は、杖罪100。兄・姉の場合は、ここからそれぞれ二等軽く扱う。弟・妹の場合は、さらに一等軽く扱う。

31条 祖父母・父母が80歳以上だったり、篤疾となっていて、本人以外に頼る者がいないのに任地に赴いた場合、杖罪100。祖父母・父母・夫が死罪の罪を犯して捕まった時、音楽を鳴らした場合、徒刑1年。

詐偽律 逸文 父母が死んだ際には(喪に服するために)官職をやめなければならないのに、親戚の喪であると嘘をついて官職をやめようとしない者は、徒刑2年。祖父母・父母・夫が死んだと嘘をついて休暇を得ようとした者は徒刑1年半。伯父・叔父・伯母・叔母・兄・姉が死んだと嘘をついた場合は、徒刑1年。他の親族の場合は一等を減らす(つまり杖罪100)。すでに死んでいるのに、遅れて今死んだと言ったり、病気だと偽ったりした者は、三等軽く扱う。

雑律 逸文 父・祖父の妻と通じた者は、徒刑3年。妾の場合は一等軽く扱う。

[不義の罪に対する罰]

5条 詔使(天皇の使者)・親王・国司を殺そうとしたり、下級役人が所属している役所の五位以上の者を殺そうとしたりした場合は、徒刑3年とする。傷つけた場合は遠流、殺害した場合は斬刑とする。

雑律 逸文 結婚前に他人と通じた者は、徒刑1年。夫がいるのに他人と通じた者は、徒刑2年。無理矢理に通じた者は、罪一等を加える。官戸・陵戸・家人が良民と通じた場合は、罪一等を加える。官奴婢・私奴婢と通じた者は、杖罪60。家人・官戸・陵戸と通じた者は、杖罪70。無理矢理に通じた者は、罪一等を加える。無理矢理に通じた際に骨折させたり、傷つけたりした場合は、ケンカで骨折・ケガさせた罪に一等加えて扱う。


〇五色の賤

古代では、一般の人を良民と呼び、その下に置かれ、差別された身分を賤民と呼びました。

「改訂新版 世界大百科事典」によると、賤民となった人々は、(1)重罪犯(2)貧困による人身売買(3)戦争における捕虜(4)手工業者(5)王族・豪族・寺社に奉仕する人々…であったようです。

そして、この賤民は5つに分類されていました。これを「五色の賤」といいます。

戸令35条には、次の5つが書かれています。

陵戸・官戸・家人・公奴婢(官奴婢)・私奴婢

この5つはどのような違いがあり、どのような差別を受けたのでしょうか(゜-゜)

①賤民は同じ種類の賤民としか結婚してはならない(戸令35条)

戸令に「公私奴婢」と一括りにされているように、官奴婢と私奴婢は結婚できていたようです。

(しかし、42条には、相手が賤民と知らずに結婚した場合、その間に生まれた子どもは良民とする、という規定もありました。賤民だとわかった時点で離婚しなければならない、とも書かれていましたが…。43条には、家人・奴婢が主人・主人の親族との間に子をなした時、その子どもは賤民とする、とあります。正式な結婚でないとダメなんですね)

②家人の子もまたその家の家人とする(戸令40条)

③相続の際の財産の対象として扱われる(戸令23条)

親が亡くなったとき、その財産は分割されますが、家人・奴婢もまたその分割の対象とされていました。

③売買の対象となる(関市令16条)

奴婢を市で売る時は、役人の許可を得て、値段をつけるようにせよ、と書いてあります(◎_◎;)一方で、戸令40条には、家人は売買してはならない、とあり、区別されていました。

④被害を受けても、一般の人より軽く扱われる(闘訟律逸文)

闘訟律逸文には、良民が他家の家人を傷つけたり、殺したりした場合は通常より罪を一等軽くする、奴婢の場合はさらに一等軽くする(家人が良民を傷つけた時はその逆で一等重くなり、奴婢の場合はさらに一等重くなる)とあります。

⑤過失がある時、主人は許可を得れば奴婢・家人を殺すことができる(闘訟律逸文)

闘訟律逸文には、奴婢に罪があった場合、許可を得ずに殺したら、杖罪80とあります。罪が無い者を殺した場合は杖罪100です。家人の場合はこれに一等ずつ追加されます。

主人が官戸を殺した場合は徒刑1年、とも書かれており、違いがはっきりしています。

⑥貸し与えられる口分田が良民より少ない(田令27条)

家人・奴婢の口分田の広さは良民の3分の1とされていました。一方で、官戸・官奴婢(記述がないが陵戸も)は良民と同じだけもらうことができ、違いがはっきりしていました。

しかし、賤民は税金を納めなくてもいいという特典もありました(まぁ、小作人のように主人のために働かされるんでしょうけど)。

さて、こうしてみると、五色の賤は朝廷に属する陵戸ー官戸・官奴婢と、貴族などが私有する家人・私奴婢に分かれ、陵戸・官戸・家人は奴婢より上の立場であるが、家人・私奴婢よりも朝廷に属する官奴婢のほうが優遇を受けていた、ということがわかりますね(゜-゜)

また、律では賤民から良民になれる方法についても述べられています😲

①年齢が76歳になった時

戸令38条には、官奴婢が66歳以上になったり、廃疾となった時は、官戸とする、官戸の者は、76歳以上になったら、良民とする、とあります。長生きした御褒美でしょうか。

②主人が良民となることを許した場合

戸令39条には、主人は家人を良民に、奴婢を家人にすることができる、とあります。

③外国の捕虜となったが、脱出して戻ってきた場合(戸令41条)

決して固定されていたわけではなかったことがわかりますね(゜-゜)

また、この賤民が後のえた・ひにんにつながっていた、という説があるのですが、

一方で両者は連続していない、という説もあって、はっきりしていません。

〇障碍者の保護

戸令7条では、身体の障碍などにより、保護を受けるのが適当な人々をその重さに応じて3段階に分けています。

(1)残疾…1つの目が見えない者、両耳が聞こえない者、手に2つ指が無い者、足に3つ指が無い者、手足に親指が無い者、瘡[できもの]のために髪が無い者、体から膿が出るのが止まらない者、睾丸が肥大して歩行困難な者、首や足に大きなできものがある者

(2)廃疾…重度の知的障害のある者、声を出すのが困難な者、背丈がとても低い者、背中が曲がったもの、手足のうち1つが不自由になっている者

(3)篤疾…ハンセン病の者、精神に障害のある者、手足のうち2つが不自由になっている者、両目が見えない者

律には次のように保護の内容が書かれています。

①廃疾・篤疾は税を免除する(戸令5条)

②残疾は次丁扱いとする(戸令8条)

健常者においても、61歳以上は「老」と呼ばれ、こちらも次丁扱いを受けました(次丁は調・庸の負担が正丁[21~60歳]の2分の1)。

③残疾は庸・徭役(歳役・雑徭の総称。労働によって払う税)を免除する(賦役令19条)

④廃疾は流罪以下について、銅を納めることで罪を免除することが許される(名例律30条)

11~16歳、70~79歳についても同様であった。

⑤篤疾が謀反・大逆、殺人の罪を犯しても、死罪とするには天皇の許可が必要となる。また、強盗・親族の傷害で死刑となった時は、銅を納めることで罪を免除することが許される。

80歳以上、10歳以下も同様である。

⑥廃疾・篤疾は取り調べの際に拷問を受けない(断獄律逸文)

⑦廃疾は死罪となって獄に入れられても、刑具をつけることを免除された(獄令39)

⑧篤疾には介護の者(侍)を1人つける(戸令11条)

ただし、篤疾が10歳以下で、親族がいる場合には介護の者を当てない、としています。

健常者においても、80歳以上の者にも1人、90歳以上には2人、100歳以上には5人の介護の者がつけられました。介護の者は子孫がいるならばまず子孫を当て、子孫がいなければ親族を当て、親族もいなければ、21~60歳の者を当てる。20歳以下の者を希望するならば、それを許せ、とあります。また、役人は適宜その様子を見て回るように、とも書かれています。


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