社会って面白い!!~マンガでわかる地理・歴史・政治・経済~: 貸し渋る札差、慌てる幕府

2026年1月16日金曜日

貸し渋る札差、慌てる幕府

 ※マンガの後に補足・解説を載せています♪

さて、棄捐令の後、札差と武士の関係はどのように変化したのでしょうか。

10月22日、定信は奉行たちに次のように伝えています。

…蔵宿改正の事で、新しく借りるのが非常に困難になっていると聞く。これまでは暮れに20両借りることができていたのに、今ではやっと4・5両借りられる有り様だとか。これまでのように貸し借りを行なうように伝えていたのに、「軽きもの」が年を越すのに難儀しているようでは、「御仁恵」も虚しいものになってしまう。蔵宿どもは趣旨をよくよく理解して、手持ちの金が少ないのであれば、会所に申し出るようにすべきである。会所にある金が乏しいのであれば、「御蔵金」を出しても構わない。…

武士たちが札差から借金するのが以前より難しくなってしまった、というのですね💦恐れていたことが現実になってしまったわけです。

定信は、この時の事を振り返って、『宇下人言』に次のように書いています。

「町奉行・勘定奉行などと深く話し合い、5年より前の借金は棄捐とし、それより後の借金の利息は安くした。これにより、一時は武士はひどく喜んだが、蔵宿たちは貸す金が無いと言って貸さなくなったので、借りる金が無いと言って武士たちは嘆いた。公金3万両を下賜して蔵宿に貸して、その金を武士に貸し出すようにしたので、武士に金を貸すことに支障はないはずであったのに、足りることを知らないためにこのように言うのであった。卯年(1783年)よりうち続いて米価が高かったが、酉年(寛政元年。1789年)にはそれが落ち着いたので、金にならないと蔵宿たちは知っていてこのようにしたのだろうと思われる。これまでであっても快く貸すことはしていなかったが、今回の(札差仕法の)改正によって貸すのがより難しくなったと蔵宿は言う。しかし古い借金は棄捐となり、新たな借金が多く行われることが無いというのは、「永代の御恵」である。古い借金が棄捐となっても、今快く金を貸し出すならば、また遠くないうちに、棄捐令を出した日のようになるだろう。だから金の貸し出しが少なくなったというのは「実之御仁術」と言えるのである」

借りにくくなったというのは逆に良いことなのだ、と強がっていますが、先に紹介した奉行へ伝えた内容を見ると、当時の定信はそんな心境ではなかったようですね💦

定信が「札差が貸し渋るのを解決できるなら幕府の金を放出しても構わない」、とまで焦りを感じていたのは、次のような捨訴(老中や奉行の屋敷の門前に密かに置かれた訴状)があったからでした。

…(棄捐令は)武家御救のために出されたものでありますが、武家は「却て大難儀」となり、逆に札差は「大仕合」で札差にとっての御救となっております。なぜなら、5月以降の借金については冬(10月)の切米で支払うことになっておりますが、これにより札差は多くの金を手に入れることができるからです。(一方で武士は借金返済で冬の切米の多くを失うので苦しい目に遭う)このようであれば、夏までの借金はすべて棄捐ということして、夏以降の借金は年済(年ごとに一定額を分割して支払う)としていただきたい。そのようにしていただけないのであれば、旗本・御家人の武士が示し合わせて、「一大事」を近いうちに伝え知らせる使者がそちらに向かうことになりますので、そうお知りおきください。…

かなり脅してますよね💦

捨訴はもう一通あり、次のような内容でした。

…この度札差に関する「御仕法」をお出しになられ、これまでは身の丈に合わぬ贅沢のために借金をしていた者も、または養う者が多くて家計が苦しかった者も、さてもさても有難いことであると言っております。この上は身を慎むことはもちろん、「御奉公」を大切に行っていく所存であります。しかし、今回の冬の切米をもって、札差の借金の返済に充てるというのは、大身・小身に関わらず、皆困っております。これまでは、例えば冬に10石受け取っていた者は、10石を担保にして、札差に3両を渡し、新たに7両を借り受けて、暮れから春にかけてまた2・3両借りることができてやっていけていたのですが、今回は夏以降の借金を冬の切米で返し、春の切米で借金をすることになるので、10月の切米が多いとはいえ、手元に残る金は少なく、これでは到底やっていけませぬ。格別の御慈悲による御救が、却って貧乏にさせることになっております。また、御救の内容も、6年前までの借金は棄捐、その後は年払いなどと入り組んでおり、理解しづらく、誤りを犯すことになります。町人はいくら助けようが命を投げ出すことはしませぬ。武士は命を捧げて御奉公をしております。「小の虫」の例えもありますが(「小の虫を殺して大の虫を助ける」…小さなものを犠牲にして重要なものを守ること」)、「大の虫」を助けることに専念すべきであります。夏までの借金は棄捐、その後の借金については残らず「年済」とし、利息は50両1分(年利6%)にするとお命じになられれば、これこそ真に武士の御救となります。武士の必要な道具・稽古の品、または衣服を用意しようにも、手元の金が少ないため難しく、これでは御奉公しようにもできません。切米を残らず持ち帰ることができたとしても、さまざまな物の値段が高くて苦労するのに、手元にある金が少ない者は、新たな借金が少なく済むわけにはまいりません。武術の道具・弓矢なども殊の外高くなっております。これについてもよくよく調べ確かめていただきたい。また、武士の品行の事についてですが、「かくし遊女」(認可されているところ以外で売春を行なった女性が町にいるので日ごろの行いが乱れるようになっております。これについては、これまで遊女の持ち主にばかり、100日手鎖や罰金といった処分が与えられてきました。しかし、遊女を置いて商売しているということは、地主や町名主などの承知のうえでやっているはず。今後は、地主や町名主も厳しく処分するとお命じになられれば、自然と遊女は町からいなくなるはずであります。この他にも申し上げたいことは山のようにありますが、この書面が無駄になる可能性も考えて、まず少しばかり申し上げておくことにいたします。…

どちらも「棄捐令で逆に生活が苦しくなった」と訴える内容です。

定信は『宇下人言』に次のように記しています。

…しかし棄捐令を出したのが秋で、まもなく年の暮れになるというのに借金をすることができず、年を越すにはどうすればいいのだと言って罵るのであった。新しいことを始めるにあたっては、はじめの内は何事もうまくいかないものである。…

定信は上手く行ったと思っていたのに、会所がうまく機能せず、札差が貸し渋り、武士が不平の声を挙げ始めたことに対して動転してしまっていたのです。

これに対し北町奉行・初鹿野河内守と勘定奉行・久世丹後守は、札差が会所から借りて貸し出したお金について、武士たちが札差にどんな金額であれ返済次第、10両でも20両でもすぐに会所に納めるようにすれば、会所の資金が増え、札差は会所から金を借りやすくなり、結果、武士に貸し出しやすくなるでしょう、と返答しました。

これを受けて、10月28日、勘定方の役人が札差に対し、次のように伝えています。

…(武士が)借り返しをするのに支障がないようにするため、会所に御下げ金を下されたが、その方らはこれを借り受け、貸し出し、札旦那が金銭に窮することの無いようにすべきであるのに、会所から借り入れた金は、元金を返せる見込みがつくまでは返済できないことになっているので、手元に1か月・2か月と残っているうちに、利息を支払う必要が生じるようになってしまう、と言って、会所から金を借り受けようとしていないと聞いている。これは仕方のない面があるので、そこで、重ねてお恵みを与えて下さることになり、会所から借り受けて貸し出した金について、(武家から)返済があり次第、少額でもいいので、会所に納めてよい、と規定を改めたので、これなら金に困っている者も会所から金を借りやすくなるであろう。今後は、借り返しに支障がないようにせよ。…

それでもなお定信はよりよい解決策はないかどうか、煩悶し続けます。

…法外な要求は問題外であるが、これまで行ってきたと同じ程度の借換は滞りなく行うようにと、札差どもに命じたということを周知させれば、騒がしいのも止むのではないだろうか。また、暮れの貸し出しを渋っては来年の切米を担保にしづらくなるであろうから、今年の暮れは今まで通りにするように、と申し付けるべきだろうか。…

貸し出しを渋る札差に対する、抜本的な解決方法を考えあぐねている様子が伝わってきますね💦

10月30日、定信は久世丹後守に、札差たちへの申し渡し案を渡し、この内容について評議するように伝えました。

…札差の貸金の事について改正した後、その趣旨をよく心がけ、仕事に励みつとめるようになった者や、以前から心がけがよろしく、堅実に商売をしている者もいると聞いている。そこで、札差の者たちをよく調べ、心がけがよろしい者、また、改正の趣旨をよく理解している者について、近いうちに賞美(ほめたたえること)しようと思う。しかし一方で、(札差が改正で多くの財産を失ったので)借り返しの事などについて、支障があると聞いている。先に、貸し借りの事については、これまで通りお互いよく相談のうえ取引をするように、と伝えているのだから、この事をよく心がけるようにせよ。俸禄の少ない御家人などは、年末に貸し借りがこれまでのようにできなくては、支障が生じるのは明白である。札差から借金ができないので、札差以外の者から高金利で借金するようになっては、改正が無意味な物になってしまう。以前から、武家の用事を請け負うのをなりわいとしておるのだから、武家の者が生活に支障が生じることの無いように、励みつとめるべきである。もっとも、「不法不筋」(法に反したり、道理に合わなかったりする)の借金の申し入れは、あるはずが無いことだと思うが、万一こういうことがあれば、これまでと同様に断ればよろしい。以上の事は、進行が滞れば、支障が生じることになる。皆々励みつとめ心を打ちこみ、借り返しや、その他の取引の事について、とどこおりなく、支障が生じないないように心がけるべきである。…

これを受けて、11月3日に札差に対し、定信案とほぼ同じ内容で申し渡しが行われています。

また、11月5日には、武士に対し、先に札差に申し渡した内容を伝えた上で、次のように申し渡しています。

…(武士は)身の程をわきまえ、自分の利益ばかりを考えないようにと、先に伝えたというのに、身分の低い者で、ゆとりがないからといって、心得違いの道理に合わない要求をする者もいるという。今後は一途に倹約をし、自身の俸禄に合わせて、借り返しの金もこれまでより減らし、誠実に生計を立てるようにせよ。借金については、これまで通りお互いの相談のうえで支障が生じないようにせよ、と札差には申し渡したが、これに乗じて身の程をわきまえずに法外の借り方をするのはあってはならないことである。吉事や凶事など、臨時の出費もあるだろうが、出費はなるべく省き、身の程に応じて話し合いをし、借金がかさまないように心がけるようにせよ。この上、異論がましいことを言ったり、自分勝手なことを言って道理に合わない要求をしたりする心得違いの者がいたら、必ずこれを処罰する。これまで借金が多かったのは、やむをえない事情もあったにせよ、まず不束(ふつつか。能力や考えが足りないこと)であったからである。今回多くの借金が棄捐となったのに、節約しないのであれば不本意である。そのうえ、棄捐のことについて不平や文句を述べ立てるのは、いよいよ不本意である。節約をしないのに、元のように借金を重ねるばかりなのは、身の程をわきまえないことであり、不埒なことである。よくよく以上の事を承知するようにせよ…

12月5日、札差たちは次のように役所に伝えています。

…御屋敷様方に金を貸したくても、御屋敷様方からの返済が多数滞っております。そこで、御会所から金を借りたいと思っているのですが、御屋敷様方からの返済が滞っていては、御会所へ元利を返済しようと思っても、手元に金の少ない我らでは、「御大切」の「御貸付金」の返済を滞らせてしまうことになり、迷惑をおかけしてしまっては申し訳が立たないので、御会所から金を借りられないでいるのです。また、御会所からお金を借りかねているもう一つの理由は、金を借りるにあたって多人数の印を必要とするためです。なにとぞ、御屋敷方より頂戴した年賦の御証文・御当用金の証文を担保として、各自が御貸付金を拝借できるようにしたいただけないでしょうか。…

12月11日に、定信は久世丹後守に次のように伝えています。

…蔵宿の一件は容易ならざる勢いである。(天明4年から今年の5月までの貸金の年払いの)上限額としては、(禄高100俵につき3両まで、としていたのを)5両とすれば、蔵宿どもは納得するだろうか。年末も迫っていて、このままだと、これまでの(棄捐令制定までの)多くの苦しみが無になり、気の毒なことになってしまう。蔵宿ばかり抑えつけるのではなく、法外な借り方をする武士を1人か2人(見せしめに)厳しく処罰するのはどうだろうか。…

…会所に札差どもを1人ずつ呼び寄せて、12%では貸し出しができないのかどうかを尋ね、できると言った者は札差のままにし、渋った者は札差をやめさせたうえ、これまで奢侈かつ怠慢、今になっても改心せぬのかと𠮟りつけ、土地も取り上げ、それを「宜しき」札差に与え、また、やめさせた札差が担当していた札旦那を分割して担当させることにすれば、世間の者たちにとっても「愉快之事」であると思うが、どうだろうか。…

…「不承知之者」を罰する場合、これまでの棄捐・利下げで御家人が潤っているのは間違いの無いことであるので、来年以降の利率については、札差と札旦那がお互いに話し合って、18%を限度に取り決めさせるのはどうだろうか。…

…しかし、(役職に就いている間だけもらえる)「足高」「役料」はその後代々もらえる俸禄でなく、しばらくの間かぎりのものであるから、これを担保にするのは難しいと言ってくるのも、やむを得ない面がある。そこで、札差と札旦那のお互いの相談のうえ、もともとの俸禄の分は12%とするが、「足高」「役料」の分については12%から18%までの間で利率を決めて取引をさせるのはどうだろうか。…

…様々な意見を述べ立てて、迷わせることになってしまわないかと思ったが、大切なことであるので、「一寸(ちょっ)と」申し上げた次第である。…

2日後には定信は続けて次のように述べます。

…蔵宿の件について、これまで支障が多かったので、大変なことであるけれども、「改正之法」を作り、貸借についての支障を取り除こうとしたのだが、札差が、改正のために取り分が無くなってしまったと言って、貸すのを控えるようになってしまったので、借りる側も、改正のために借りづらくなった、と心得違いの者が出るようになってしまった。そこで、その後たびたび触れを出した上、勘定方の役人を会所に詰めさせることで、何とかなっている状態となった。しかし来年になっても、年中勘定方の役人を詰めさせるのも穏やかなことでないので、これをやめたいのだが、かといって、そうすれば、札差と札旦那の軋轢がひどくなって、札差どもが札差業をやめて他の仕事をするようになり、その上、新たに札差業をやりたいと思う者がいない場合は、支障が生じて、改正が無駄になってしまう。…

かなり不安を感じている様子がうかがえますね💦

定信はその上で、自分としては、「篤実」(情が深く誠実なこと)な札差とそうで無い札差の2つに分けて、「篤実」な札差については言い分を聞いて、限定的な利上げを認めるべきであると思うが、どうだろうか、と言っています。

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